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ムーティ指揮 ローマ歌劇場東京公演 5月27日 『シモン・ボッカネグラ』 感想 [オペラ]

 一大決心をして、大枚をはたいて東京まで行ってムーティのオペラを観てきました。ああ、よかった。今までの引越公演の中では一番良かった。感動も覚めやらず、その感想をしたためないではいられないので、今帰宅してすぐに書いています。

ヴェルディ 『シモン・ボッカネグラ』 プロローグと第3幕のメロドラマ
 指揮: Riccardo Muti
   Simon Boccanegra-George Petean (br)
   Maria (Amelia) -Eleonora Buratto (sop)
   Gabriele-Francesco Meli (ten)
   Fiesco-Dmitry Beloselskiy (bs)
   Paolo-Marco Caria (br)
 ローマ歌劇場管弦楽団・合唱団

20140527a.jpg 私のもう一つのお目当てだったFrittoliが直前でキャンセル(もうFrittoliは3回もキャンセルされているのできっと縁がないのでしょう)。でもやはり第一はムーティです。CDを聞いてもあれだけパワフルな音楽を引き出す人、オペラにおける指揮者中心主義を貫いている人ですし、キャストだってすべて彼のお眼鏡に適っているはず。指揮者中心で観る演目を決めるのは初めて。
 
 ムーティの音楽は、もうこれ文句なしです。痒いところに手が届くって感じです。オケはそれを100%生かせているのかというと、そうでもなさそうなのですが、ムーティの指揮を観ているとどうしたいのか本当によくわかるものでした。ただの歌の伴奏という感じでは決してありません。ムーティは観客が拍手する箇所も考えてあるようで、曲を無理につないでいくと言うことはありませんでした。
 歌手で一番感激したのはGabrieleのMeliです。スタイリッシュで音質が乱れない。しかも感情がしっかり表現されていてこちらまで伝わってくるし、それに何より、声に無理がないのに本当によく聞こえる。彼が歌う度に感動してしまいました。
 Petean(Simon)はとっても明るい声のハイ・バリトンで、とても誠実に歌っていました。時々声が疲れて聞こえる時があるのですが、本当によく歌っていました。
 Beloselskiy(Fiesco)もとても丁寧な歌で、日本ではあまり聴けることのないしっかりと響くバスで、彼の歌もどれもとても楽しみでした。Simonとの2重唱も天国にいるような気分で聴くことができました。
 Paolo役が巧いと善悪のコントラストがはっきりして、このオペラは本当に味が出てくると思うのですが、Cariaは歌も芝居もとても巧く、物語をしっかりとしめてくれていました。
 Buratto(Maria/Amelia)は、とても声が綺麗なのですが、息が比較的短くて変な箇所での息継ぎが気になったのと、高音を出してアンサンブルをきめなければいけない時、とってもよくがんばって出そうとするため音程が上ずって聞こえてきて、私には少し興醒めでした。これがFrittoliだったらどんなにいいことかとは思いましたが、今更ながらのお話しです。
 それとオペラグラスで観ていると、どの人もとっても若い!やっぱし若い歌手って見た目はとってもいいですよね。
20140527b.jpg 他の人のブログを見ていると、合唱があまり巧くないと書かれていましたが、私にはとてもよく聞こえました。パンチがあるし、しっかり指揮者に統率されているという感じでした。

 ムーティが颯爽と現れて、大好きな第1曲が始まります。幕が開くと舞台はジェノヴァの聖ロレンツィオ教会を彷彿させる黒と白の大きな建物の中です。昨年の夏にジェノヴァに行ったところだったので、見慣れた場所が出て来てとても嬉しかったです。イタリアの歌声がホール一杯に響き渡ります。Fiescoのアリア、特に後半、舞台裏からのアカペラ・コーラスを伴う部分、生で聴ける喜びを思わず噛みしめてしまいました。合唱もとっても巧い。FiescoとSimonのデュエットも格好いい!
 プロローグと第1幕は25年離れているわけですが、幕間休憩なしで、約5分くらいの待ち時間で始まります。大好きなAmeliaのロマンツァ。Gabrieleの声が舞台裏から聞こえてきて、Ameliaも待ち焦がれていたのでしょうが、あんまりMeliがスタイリッシュな声なので、私も期待で胸が高鳴りました。海のほとりの大邸宅のテラスという設定のようですが、大きな鎖が家の上からぶら下がっていました。このオペラで一番好きなナンバー、SimonとAmeliaのデュエットもアングリと口を開けて聞き入ってしまいました。Ameliaの最後の"Padre"という高音はもう少し力が抜けた音で聞きたかったですが...。その後のPaoloとPietroの短いパッセージは、アッバードのCDだととっても小気味よいテンポで進むのですが、ムーティは案外ゆっくりでした。
 第1幕フィナーレの場面転換も約5分くらい待ちます。本当にたくさんの人達が舞台上に現れて、音楽も否応なしに劇的に盛り上がります。あんまり人が多く、舞台からオケピに落ちないかなぁと思ってしまいました。最後の大コンチェルタートでも、もちろんSopranoの高音は目立ちますが、Meliの声がいつもしっかり聞こえてくるのには感銘を受けました。
 第2幕にはGabrieleのアリアがありますが、今回のアリア後の拍手で一番長かったのではないでしょうか。安定した音質とスタイリッシュな歌い回し、本当に感動しました。Simon、Amelia、Gabrieleの三重唱も緊張感のあるもので、本当に耳の保養となる響きを楽しめました。
 最終幕は、聞く前から思い入れが強すぎて、感動感動。どうか終わってしまわないでと祈るばかりでした。Paoloが婚礼の合唱に伴われて歌うソロは、Cariaの演技力も相まって悲劇的で良かった。Simonのソロも格好いいし、SimonとFiescoのデュエットは本当に涙ものでした。そして最後の大コンチェルタート。Simonの最期の場面もとても人間的でよかったです。

20140527c.jpg 1月にアッバードが亡くなった時にも書きましたが、私がオペラを初めて聴いたのは高校2年生の時にスカラ座が引越公演にやってきて、その公演をNHK放送で見た時からです。その時アッバードが振ったのがこの『シモン』。それから遅ればせながらLPを買って聴き、それ以来ずっと大好きなオペラです。それからガヴァツェーニ指揮のCDやら、アッバードのパリ・オペラ座ライブを買ったりしましたが、そのLPが私の『シモン』原体験で、ドミンゴがタイトル・ロールをやったので興味本位にメト版、ロイヤルオペラ版、スカラ版の3種を買いましたが、もうアッバードのLPが私の中で不動の地位を占めていました。でも今回のようにソリストがハイレベルで、指揮者が隅々まで統率をとった演奏となると、やはりただものではありませんでした。
 水曜の夕方で値段が値段なのに、席はほぼ満席。この気持ち、本当によくわかるし、みんな私と同じように満足しきって帰って行かれたことだと思います。そうそう、テノールのSabbatiniも客席で聞いておられました。

 オペラが終わった後も興奮はいつまでも覚めやりませんでした。
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クラウディオ・アッバード(アバド)追悼 [オペラ]

 2014年1月20日、イタリアの指揮者クラウディオ・アッバードが亡くなりました。
 自分のブログを書くのはとても久しぶりですが、アッバードが亡くなったことは少し衝撃ですし、インフルエンザで出勤禁止も今日で最後で、体はいたって普通なのに家を出ることができないので、今の気持ちを書きとどめておきたいと思いました。

 アッバードを知ったのは1981年のスカラ座が日本に来日した時です。もちろん高校生の私がその公演を観にいける訳でもなく、ましてオペラをそれまで観たことのない私には、NHKで放送されたテレビを観るだけでも十分新しい体験でした。その時はカルロス・クライバーも同行していて、作品もアッバードが「シモン・ボッカネグラ」「セヴィリアの理髪師」、クライバーが「オテッロ」「ボエーム」で、オペラ初心者で若輩者の私には、悲劇かつ有名なものにより関心が高かったので、クライバーの2作品の方がずっと感銘を受けていました。アッバードの2作品は観たもののもう一つよくわからないというのが正直なところでした。
 しかしそれからなけなしのお小遣いで、年に2つというペースで少しずつオペラLP(当時新譜は一枚2800円、廉価版で一番安いものでも一枚1500円)を買い集めて行くと、アッバードに対する見方が変わっていきます。初めてアッバードのLPを買ったのは高校3年生になった時で、「シモン・ボッカネグラ」でした。当時あまり有名でないオペラだったけど、来日公演の時にテレビで観ているし、名盤の誉れ高いLPだったので買おうと思いました。なんせ家に聞くことができる他の音源がなかったので、このオペラはどれだけ聴いたことでしょう。今では一番好きなオペラの1つです。その後アッバードのレコードは、できればスカラ座と共演しているのが欲しかったということもあって、「マクベス」「仮面舞踏会」「レクイエム」と立て続けに買って聞き込みました。アッバード熱が自分の中でも高まっていたので無理してでも新譜も買いたいと思いましたが、ちょうどその当時CDが売られ出した頃でオペラはLPよりもずっと高かったので買えず、レコード芸術のレコード評などを一生懸命読んでその曲の代表的な録音(
「アイーダ」は旧カラヤン盤、「ドン・カルロス」は新サンティーニ盤という風に)しか買えず、アッバード盤は諦めていました。それでも、本当によくレコードを聞き込んだ時期だったので、私のオペラ基礎の大半はこのアッバードに仕込んでいただいたということになります。

abbado1.JPG 「シモン・ボッカネグラ」はもう30年以上聞いていることになります。最近ドミンゴがバリトンの主役を歌い出し、このタイトル・ロールも歌っているのでそのDVDを買って観たりしていますが、やはりこのアッバードの演奏とは比べものにならず、忘れられません。今では、プロローグと第3幕にあるカップッチルリとギャウロフのデュエットなど、本当に心にしみて大好きですが、30年間変わらず大好きなのが第2幕のフレーニとカップッチルリの2重唱です。歌手もさることながら、アバドのオーケストラの盛り上げ方がとても上手く、何度聞いても胸が熱くなります。ライブ映像などで観るとあまりどれもうまく聞こえない幕切れのコンチェルタートも、フレーニの上手さも相まって本当に感動的で、未だに聞くたびに涙が出ます。

abbado2.JPG 「仮面舞踏会」には当時まだ「これ」とされる録音がなく、モノラル録音を敬遠していた私にはカラスのLPを買おうと思うこともなかったので、当時新譜だったアッバード盤を買いました。LPジャケットはこれとは違って、ドミンゴが座っている全身を正面から撮ったものでした。「シモン」や「マクベス」とは違い、どこか乾いた音がする録音でしたが、上手いドミンゴと若々しいリッチャレルリ、それにとってもノーブルなブルゾンと、これも本当に聞き込んだ録音です。リッチャレルリの2つのソロ(2幕の大アリアの盛り上げ方、3幕のロマンツァの演歌調のしっとり感)を聞いても、アッバードって上手いなぁと思っていました。

abbado6.JPG 後々、CDを買う余裕も出てくる歳になっても、その頃の志向が大きく影響し、イタリア、それもヴェルディとプッチーニを中心に聴いていましたので、アッバードのロッシーニを買うのは随分後で、こ10年くらい前のことになりますが、オーケストラ曲自体にあまり関心がなかった私には、他のアッバードの録音はあまり興味がなかったかもしれません。唯一、ブラームスの交響曲全集が欲しい時、北ドイツの雰囲気をあまり好まない私は、「よく歌う演奏」という触れ込みだったアッバード+ベルリン・フィルの当時新譜を買いました。これは未だに好きで、たくさんある他の名演に気が移ることなく、よく聞いています。特に1番の第2楽章が好きで、他の指揮者のだとがっかりしてしまった覚えがあります。

abbado5.JPG ヴェルディのレクイエムは、金のイエスの十字架磔刑像の衝撃的なジャケットのLPを大学生の時に買って聞きましたが、当時所属していた吹奏楽の仲間から、よくそんな退屈そうな音楽聴くなぁ、と言われたのを覚えています。レコード針を下ろすと、じりじりという針の音の中にかすかに弦の下降音型が出てきて、合唱のつぶやきが出てくる始まり、いつも息をのんで緊張しながら聞いていました。CDに最初の弱音から静寂の中にしっかり聞こえてくるので、その緊張感も薄らいでしましたが、少し荒削りの合唱にとっても巧いソロ4人がお気に入りで長く聞いています。その後、ウィーン・フィル盤もベルリン・フィル盤も買って聞きましたが、リベラメがどうしてもスカラ盤の呪縛から逃げられず、しかもスカラ盤のジャケットの美しさにかなうことなく、2・3回聴いてお蔵入りしてしまいました。しかしこの曲がこれほどテレビのバラエティ番組で使われるようになるとは思いませんでした。(ちょっと曲の内容を勘違いしてるかとも思いますが、みんなが知ってくれるのはいいことでしょう。)

 私とアッバードとの関わりを徒然に書かせてもらいました。若い頃の溌剌としたかっこいい姿ばかりが思い起こされます。胃がんで亡くなったと聞き、きっと大変な思いをされたことだろうと思います。あらゆる痛みや苦しみから解放され、彼の魂が主のもとで永遠の安息を得られますようお祈り申し上げます。

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劇団四季「サウンド・オブ・ミュージック」 大阪四季劇場 11月12日 [ミュージカル]

1741.jpg 昔から大好きなミュージカル映画「サウンド・オブ・ミュージック」、劇団四季が公演するというので、早速チケットを買って観てきました。アンドリュー・ロイド・ウェバーが2006年にプロデュースしたものということで、とても楽しみにしていました。
 当日の主要キャストはマリア=笠松はる、トラップ大佐=芝清道、修道院長=秋山知子でしたが、子供たちも含めて穴のないキャストで本当に楽しめました。笠松さんは、以前ファントムのクリスティーンで観ましたが、この人、とても明るそうな感じの人なので、このマリアの役の方がずっと自然でよかったです。一番歌がうまいと思ったのは秋山さん。「すべての山に登れ」は本当に感動的な歌唱でした。もちろん劇もとてもうまいと思いました。芝さんは初めて観る人でしたが、声も立ち姿も石丸幹二を彷彿させるところがあり、劇団四季の男声のカテゴリーにこういう系統があるのかなぁと思ったくらいです。トラップ大佐としてはもう少し品を感じさせる声と演技がいるかと思いましたが、歌自体はとても巧いと思いました。どちらかというとファントムの方があうのではないかと思いました。
 子供たちもとても頑張っていました。ただ、ああいう商業演劇で子供が準主役になるのはある程度限界があるかなぁとつくづく感じました。はっきりと大きな声で話すこと自体、かなり子供たちには負荷がかかるようで、どうしても不自然さをぬぐえませんし、必死な顔つきが、よくがんばっていることを物語るものの、観ている側はストーリーそのものに入っていけないデメリットがあります。歌はよく訓練されていて、本当にしっかり歌えたのには感動しました。リーズルはこれは成人メンバーなのか、歌もさることながら、あずまやで踊る踊りのとても巧いことには感心しました。
 一番気になったのは、歌の配置が若干変えられていることでした。「私のお気に入り」が修道院長と共に修道院で歌うのは中でも一番気になった点です。背景として、マリア自身は修道院内ではそれほど問題を感じている様子もなく、嫌な思いを忘れるためにこの歌を歌う理由がありませんし、それに修道院長が同調する意味もわかりません。この歌は雷に怖がる子供たちを慰めるために歌うという映画での配置の方がずっとしっくりするものです。それにマリアが去ってから悲しい思いをしている子供たちが、その気持ちを慰めるのにこの歌を歌うということにもうまく繋がってきます。雷のシーンが「ひとりぼっちの羊飼い」に換えられていましたが、これこそパーティで歌うからこそ、この子供たちが歌がうまいことを示したのだと思います。それもなしにお休みの歌だけを聴いて、彼らこそ音楽祭にふさわしい逸材だと判断するだけの材料にはならないと思います。
 日本はキリスト教国ではないので仕方ないとは思いますが、教会内の表現について幾分の違和感があったのも事実です。修道院内の聖歌はあれほどビブラートをかけては歌わないと思いますし、結婚式に出てくる司祭の格好はかなり異質だと思います。もともとあれは司祭がミサを挙げる時の服装ではありませんし、結婚式ならちゃんと決まった服装を身につけているはずです。

 ペギー葉山の日本語訳はとても巧いと思いますが、それ以外の訳がいつもの劇団四季訳でがっかりしました。不自然な日本語と、自虐的なのか自己弁護的なのか、子供たちの台詞に「一つの音符に一つの音のはずなのに」という表現がありましたが、これをもう少ししっかり守ってもらわないと、日本語がとても聞き取りにくいです。それにところどころ英語をそのまま入れるというのも、あまり日本語のミュージカルということを考えると好ましいこととは思いません。
 っと、細かいことに文句をつけると一杯になってしまうのですが、全体的にはとても満足したもので、いいできだと思います。また観に行きたいなぁと思ってしまいました。

PS: 原作について、昔から納得がいかない点は、ザルツブルクの山を越えていけるのはドイツか、やはりオーストリアかだと思います。スイスに逃げるには遠すぎるし、絶対途中でナチスに捕まるんじゃないかなぁ。

小田和正 「どーも どーも その日が来るまで」 10月14日 神戸ワールド記念ホール [音楽]

 この日はたまたまお休みの日で、久しぶりに神戸に出かけることもあって、少し早めに神戸に向かいましたが、残念ながら雨。南京町にも行きましたが、雨の中買い食いして歩く気にもなれず、すんなり通り過ごしてきました。かと言ってウィンドウ・ショッピングするほど見たいものもない。仕方なくカフェにでも行こうと言うことになりました。コム・シノワのパン屋さん、大好きで何度も行っているのに、やっぱし行き方がわからず迷ってしまいます。なんとかi-modeで探しだし、めでたくたどり着きましたが、こんな時インターネットだったら探すのも早いんだろうなぁって思ってしまいました。やっぱりスマホ必要かなぁと思った最初の日です。コム・シノワのおいしいパンを食べて気を取り直して、小田さんのコンサート会場へ。
P1050234a.jpg ポートアイランドに行くのも久しぶり。でも三ノ宮から乗り換えて行くにはちょっと不便。最寄り駅で降りたら、雨脚も強まっていて、ホールまで行くのも億劫。ホールの入り口は二つあり、アリーナとスタンド席で違います。グッズ売り場は明らかにスタンド席入り口に見えるのですが、この雨の中、遠回りしてスタンド席入り口に行く気になれず、断念。このホールに来るのも、また小田さんのコンサートでアリーナ席が取れたのも今回が初めてです。入ってみるとここのホール、案外狭くて驚きました。ちょっと真ん中からずれる席ですが、近くに小田さんが走り回る廊下がある!

 始まってみると、やっぱし小田さん遠い。でもいつかそばを通るさって期待して、歌に聴き入ります。「明日」「ラブストーリーは突然に」「こころ」「正義は勝つ」と続きますが、テンポの早い曲はなんだか少ししんどそうにも聞こえます。最初のうちは知らない歌が多かったのですが、大好きな「たしかなこと」になると胸も弾みます。小田さんのハイトーンはやっぱし健在です。これで64歳?!「たしかなこと」は本当に胸にしみ入る歌詞で、中学生の子供がいてもおかしくない年になってしまうと、この気持ちが本当にわかります。
 メインステージを離れ、出島で二人で歌い始めるのですが、この場所は少し見えにくい。後ろ向かないといけないんだけど、パイプ椅子の狭い空間で私のような巨体が後ろを向くのは近所迷惑。嗚呼。私はオフコースの頃からのファンではないのでオフコース時代の歌はあまり知りません。でもさすがに「さよなら」は知っています。Looking Backに入っていた大人っぽいヴァージョンで、ギター2本でやってのけられます。わー、これはいい。まだまだ暑い日でしたが、冬の寒さを思わせ、寂しさ、切なさがジンジンと伝わって来ます。
 大好きな「緑の街」の後、ピアノの弾き語りで「風の坂道」でしたが、これには参ってしまいました。涙が出る出る。私たちの年代の状況をこんなにうまく歌い現している歌はありません。グイグイと心の柔らかい部分に入り込んでくる感じでした。
 ここからしばらく元気な歌が続き、会場はもうノリノリ(←表現が古いかぁ)でした。「キラキラ」や「伝えたいことがあるんだ」も大好きな歌ですが、あれあれ、コンサートの始めに心配していた声の調子もとっても良くなっている。2つとも大変な歌なのに、さすがに小田さん、プロだなぁ。続く「緑の日々」では、最後の最高音はコーラスの人に任せて、自分は内旋律を歌ってはりましたが、これはもう当然のことだと思います。
 「今日も どこかで」、前回のコンサートのテーマです。前回は3回もコンサートに行ったから、この曲はよく歌った思いがあります。特に京セラドームで歌ったときは本当に感慨深かった...。そんなこと思い出したらまた涙が出てきた。ピアノの弾き語りが2曲。「さよならは言わない」は少しできすぎた曲。でも生で聴くと心が動く。これは自分のことを歌ったのかなぁと思っていたけど、振り返ってみると、私にだって当てはまる。続く「東京の空」は、もう、これは成熟した歌で、成熟した男が歌う、思いやりと優しさに溢れた歌です。前回同様、スクリーンには青い空が映し出されますが、その青い空を見ながら、また涙。小田さん、何回泣かすねん!
 アンコール1回目は「またたく星に願いを」と「ダイジョウブ」。もう涙腺が緩みまくっていて、「ダイジョウブ」でも涙。アンコール2回目でピアノ弾き語りの「言葉にできない」。これがないとダメ。私が小田さんのファンになったのも、テレビ・コマーシャルでこの歌が流れていたから。すぐにLooking Backを買いにCD屋さんに行きました。この歌は本当に良くできている。私もこう言えるような人間になりたいって、ずっと思って来ました。この曲を歌うときの小田さんの練られた声も大好きで、歌い回しも大好きで、でもメッセージ自体が重いのでいつもいつも聴くわけではない分、こうして生で聴くと....。続く「YES-YES-YES」は、オフコース時代からのファンの人にはアレンジが物足りないのかも知れないけど、私は大好き。しかし高い声!拍手する力も無くなるくらい感激。

 その後バンド全員が「いつもいつも」を無伴奏で歌い、もう終わりかな、って思ったら、最新アルバムのオープニング曲「君のこと」。これはかなりインパクトのある曲だったし、メッセージ色も強いので、ギターの弾き語りといっても強く響いてきます。もうこれで終わりかと思ったら、これもまたメッセージ色の強い「生まれ来る子供たちのために」。3時間以上にも渡って歌ってくれて、小田さん、本当にありがとう。本当にありがとう。

 でも急いで三ノ宮にたどり着いて乗った新快速電車は、京都駅で最終の地下鉄に接続する電車。夕方にコム・シノワで食べたパン一切れが唯一の夕食になるだなんて...。でも心が一杯だったから、癒された気分で床に就きました。

 これがコンサート最後だなんて言わないで欲しい。。。。。

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びわ湖ホール ボローニャ歌劇場公演「清教徒」 感想 [オペラ]

 フローレスの突然のキャンセルが悲しくて、今日のびわ湖ホールへの足取りはとっても重く、嫌な気分でした。色々なことが頭の中を巡り、嫌な気分がスパイラルになっていました。来られている方々はそれほど怒っている様子もなく、ロビーではキャンセルで来ていbologna1.jpgないフローレスのDVDが売られている...。メトロポリタンのキャンセル騒ぎよろしく、全員にプログラム配布(うちは家族で2冊もゲット。ありがたや、あなありがたや)。そしてまず最初に歌劇場総裁からの謝罪の辞。聴いていて体が震えるほどの嫌悪感。メト公演の時のようなブーイングもなく、拍手のうちに曲が始まりました。
 そんな私も、序曲が終わり、合唱が始まると心も緩みます。あぁ、イタリアの声、やっぱしイタリアの声は違う...。それからというもの、至福の3時間でした。今回の公演は、かなりのハイレベルで、結果的にフローレスが歌っていなくても許せる内容でした。

 まず一番感激したのはヒロイン役のランカトーレです。最初登場した場面は音質が不揃いで「あれっ」っと思いましたが、歌い進めていくうちにそれもなくなっていきました。ただ、低音で胸声を使って歌う音が平べったくてとても耳障りなのが始終気になりました。しかしそれはアウフタクト部の音に多く、中音以上の音にはなかったので、許せる範囲かなぁって感んじです。次に聴ける機会があれば、この音がなくなっていたらいいなぁ。
 それを除いては、コロラトゥーラもカンタンテの部分も本当に巧い。声もとても深みのある柔らかいいい声です。2幕の狂乱の場、今回の公演でフローレス・キャンセル後に使われていた宣伝の「ランカトーレ・カデンツツァ」って、この狂乱の場での2回目のヴァリアンテのことだそうで、そのヴァリアンテは、これもまた巧い。安定しているしよく響いている。しかも寝転びながらの無理な姿勢での歌唱。とってもスリリングで楽しかったです。勿論3幕でのアルベロとの二重唱もツボをよく捉えて歌う姿は憎いばかりです。それに幕切れ...。
bologna3.jpg アリアや二重唱が終わるごとに盛大な拍手喝采をもらっていましたが、特にカーテンコールでは本当に嬉しそうで、主要キャストと手をつないでは、舞台前面に走り出てくる様子は心からこの公演を楽しんだという感じでした。ああ、ランカトーレ、なんと素敵な人なんだぁ。見た目もとてもチャーミングな人でした。

 その次に感動したのはテノールのアルベロ。海水を飲み込んで喉を痛めるというプロらしからぬ間抜けな言い訳でキャンセルしたといっても、今や世界のフローレス(日本の歌手に不義理しても、世界にはたくさんのファンがいるから大丈夫とでもいいたげな不遜さ)、その代役となるとプレッシャーも大きかったでしょうが、このアルベロ、とっても綺麗な声と端正な歌で、歌い出しから気に入ってしまいました。登場のソロのハイDisを聴いて、あぁ、と、本当に胸をなで下ろしました。勿論たくさんの拍手をもらっていましたから、ご本人も安心されたんじゃないでしょうか。 
 声量がある人ではありませんでしたが、3幕冒頭のソロも端正な歌唱を聴かせてくれますし、ランカトーレとの二重唱ではハイD2回を出しながらも朗々とした旋律美を披露してくれました。また最後のコンチェルタートでは、出ましたハイF(家に帰ってからフローレスのDVDで確認しましたが、それより高い音でした)。ファルセットを使うことなく出していましたよ。しかしテノールのハイFって、もう人間の声ではないような凄い声ですね。勿論高音ばかりではありません。しっかりとアンサンブルのバランスもよく、いやはや、本当にいい歌手を聴かせてもらうことになりました。 

 フローレスのキャンセルでがっかりしていたのですが、気づいてみると、このオペラではテノールは超絶技巧を要求されてはいるものの、実際歌うのは1幕3場と3幕だけ。一番おいしいところだけ歌うという役。だから、プリマ・ドンナ・オペラと考えれば、全体はとっても楽しめるものだったのです。それにアルベロ、この5月にメトの来日公演でカウフマンの代役をつとめたヨンフン・リーに比べると、ずっと満足できる代役でした。

 腎臓結石のためにキャンセルしたガザーレの代役サルシも大健闘です。1幕1場でのソロは、とても安定していてよく伸びる朗々とした声でした。ガザーレがどんな人かも知らないので比較はできませんが(後で調べて見ると前回のボローニャ公演でルーナを歌っているのを聴いていました)、私はこの歌手でも十分満足です。骨格の関係でか、日本人のバリトンでこんな風に深みのある声は少ないから、とても気持ちよく聴かせてもらいました。
 バスのウリヴィエーリもサルシと同じく、朗々とした歌いっぷりがイタリアを感じさせ、とてもよかったのです。この役本来はバスのようで、ウリヴィエーリの声は明るくって軽めのバスだったので、2幕最後のサルシとの二重唱ではあまり区別が付きにくく、少し残念でした。

bologna2b.jpg 一番感心したのはベルリーニの書いた音楽が、とても甘美であり、劇的な部分もしっかり押さえてあるということでした。ストーリー展開はあまり納得がいかないものの、歌手が堂々としていて、まるで歌舞伎を見ているようでした。
 っと、残念なことは演出です。特に合唱の動かし方を見ると、これは一体学校演芸会の出し物ですかって感じです。変な手の動きも気になりますし、揃って動かないと意味がないであろうマスゲームも、バラバラに動かしている人が、いるいる何人も。ちゃんと並べない人もいたみたいだし、その辺は大変そう。

 概して、今日の演奏は本当に満足のいくものでした。ただ、だからと言って、最初からこのキャストで売られていたら、こんなに高額なチケット代を支払って買ったかというと、???です。
 今回、私の大きな反省点は、こうした外来オペラに手を出したことです。以前、ナポリ・サン・カルロ来日公演でリチートラ、前回のボローニャ来日公演でアラーニャ(いずれもマンリーコ)を聴きに行ったことがありますが、それ以来、こんなに高額な来日オペラ、羨ましくは思ったものの、実際に聴きに行こうという興味すら持っていませんでした。今から思うと、それがやはり自分の経済状態から考えると正しい選択であったと思います。
 今回はメトにしてもこの公演にしても、どうしても生で見たかったホロストフスキーやフローレスと言った、やはりスター歌手に目がいってしまったところがあります。オペラは総合芸術で、1人2人だけの手になるものではありません。そこにばかり目を向けるようでは、オペラファンとしてはまだまだ浅いものだと思ってしまいます。

 考えてみると、看板歌手が来ないからと言って、あれだけの人達が動くのですから、相当の費用もかかるでしょうし、高額であることは変わりありません。とても腹立たしい日を過ごしてきましたが、代役で来てくれた人達、オーケストラや合唱の人達、それにスタッフの人達がプロの心意気を見せてくれた公演だったと思います。(その分、腰抜けフローレスの評価は私の中では随分下がってしまいますが...。)

 ランカトーレ、アルベロ、他のキャストや楽団、スタッフのみなさん、日本に来てくれてありがとう。 東京での公演も盛会になって欲しいものです。

ボローニャ歌劇場 ファン・ディエーゴ・フローレス キャンセル [オペラ]

「あのマリア・カラスの生の舞台を同時代に生きて享受できたオペラファンは人類史的幸運であったが、それ以来のオペラ史的至福と云えば、100年に一人のテノール、フローレスを今聴くことができることと言っても過言ではない。ハイCよりも高い音が何度も出てきて、オペラ史上最高音をテノールに要求する、本場イタリアでも上演至難な「清教徒」を遂にフローレスで、日本で実現!ランカトーレ、ガザーレ等、当代の純イタリアン・ベストメンバーの瑞々しい声を揃え、ブルーを基調とした美しい新演出の装置も見逃せない。オペラ愛好家のあなたなら、これを聴かずして何を聴く!!」

「オペラ史上の奇跡!100年に一人のテノール、フローレスによる超高音オペラ。マリア・カラス以来の歴史的な至福の体験、これを聴き逃したらオペラファン一生の悔い・・・」
(ボローニャ歌劇場びわ湖公演チラシより)

S席 54,000円、 A席 46,000円、 B席 39,000円、 
C席 32,000円、 D席 25,000円、 E席 17,000円

 フローレスは大好きなテノール。CDもDVDもたくさん買い込んで聴いてきました。そのフローレスが関西に来ると聴いて、なんとしてでもチケットを買いたかった。財布と相談して、32,000円で最上階の後ろから2列目の席を、昨年12月に、チケット争奪選で手に入れました。この席からは小さいだろうなぁ、でも声はよく聞こえるはず。32,000円でも分不相応。これ以上の出費はできません。
 同じ劇場の「カルメン」のカウフマンは、メトロポリタンの引っ越し公演の時に、「放射能が怖いから」と来なかったから、どうせ今回も来ないだろうと思っていたら、案の定キャンセル。今回のキャンセルは「私自身、日本に行くことを非常に楽しみにしており、皆様にまずお伝えしたいことは、この数か月間、日本の皆様が直面している状況を理由にお伺いできなくなったのではありません。(本人による謝罪文より。ボローニャ歌劇場メイン・ページ)」だそう。白々しい、と思ってた。これがHeldentenorを歌う現在の状況に腹立ちながらも、フローレスは何の発表もしていないから、さすがフローレスだと思っていました。
 リチートラの訃報を知り、凄くショックを受けながらも、ボローニャの「エルナーニ」の代役は誰になるのか調べようとボローニャのメインページを見てみると、フローレスのキャンセルの情報が載っていました。目を疑いました。しかも理由が理由です。

「フローレスからのメッセージ
 親愛なる日本の友人の皆さま、ファンの皆さまへ
 悲しいことに、病気を理由に9月のボローニャ歌劇場公演における「清教徒」に出演できなくなったことをお知らせしなくてはなりません。海水を飲みこみ激しく咳込んだ時に声帯の開口部分の細い血管を傷つけてしまいました。深刻な病状というわけではありませんが、この状態では歌うことが出来ません。しばらくの間休養が必要です。久々に日本を訪れることを待ち遠しく思っていました。そして、その地で大切なファンの皆さん、友人の皆さんに再び会えることも。一方で、私にとって大変特別なオペラである「清教徒」を歌うことが楽しみでした。
 これまで何度も日本を訪れました。私の心に残っているのは美しい思い出ばかりです。そして、再び日本を訪れる機会が来ることを待ち遠しく思っています。
 皆様にはご理解頂けますと幸いです。
 フアン・ディエゴ・フローレス」

 これはどういった理由でしょう。この人は日本であれだけの内容の宣伝をされていたのにも関わらず、自分の不注意でこんなことになり、上演ギリギリのこの時期になり、キャンセルです。これが本当の理由なら、プロフェッショナル失格じゃないですか。
 もしこれがただの言い訳で、本当は放射能が怖かったなら、もっと早い時期にそう言えばいいだろうし、主催者側もあれだけの宣伝を打っているのだから、このオペラの公演は中止して払い戻せばいいのではないでしょうか。
 しかも代役は、今まで名前も聞いたことのないスペインのテノールです。まだ劇場メインページにはその人の詳しい情報は載っていませんが、今日主催者側から送られてきたお詫び状にはこうあります。

「これに伴い、アルトゥーロ役は、セルソ・アルベロが演じることが決定しました。アルベロは2009年にボローニャ歌劇場「清教徒」のアルトゥーロ約として、フローレスと交代で出演しており、ベッリーニのオペラの現在最高の演奏家の人です。」

 私たちはボローニャにいてこのオペラを観るわけでもなく、交代で出演しているからといって、フローレスと同じ高額な代金を払って観る理由がありません。大体、宣伝で言っていたフローレスのことはどこでどう代償を払ってくれるのでしょう。これでは完全な詐欺行為です。ちなみに今日掲載されている宣伝にはこうあります。

「イタリア、若手コロラトゥーラ・ソプラノNo.1のデジレ・ランカトーレによる「清教徒」最大の見せ場:「狂乱の場」。ここでランカトーレが繰り広げるはずの、前代未聞の、壮絶なカデンツァ(即興歌唱)は必聴!
 若きランカトーレの「清教徒」デビューは、2008年9月シチリア島パレルモ、マッシモ大劇場であったが、第二幕「狂乱の場」の場での、彼女の独自の、「カデンツァ」は、誰もが耳を疑うような、上記諸先輩からも聞いたことのない、度肝を抜くような、壮絶なカデンツァ(即興)であった。人呼んでこれを「ラントーレ・カデンツァ」と云う。ピエラッリがオリジナルの演出を手掛けた、ブルーを基調とした美しい装置も絶対に見逃せない。」

 確かにランカトーレは巧いです。フローレスとランカトーレの組み合わせをどんなに楽しみにしていたことか。しかし、最初の宣伝ではランカトーレについて、ここまで書いていなかった癖に、今はこの宣伝で、完全にランカトーレ売りに換わってしまっています。それほど代役のテノールがいいのなら、その人の宣伝を一番に書けばいい。
 
 震災以降、日本経済は大変な時期にあります。同じ日本人、お金を使うなら日本に落としたい。どうして、明らかに格下げの歌手に変えたイタリアの劇場に、これだけのお金を支払わねばならないのか、納得がいきません。

 怒りと無念さは、どうしても押さえきれません。

 蛇足ながら、バリトンもキャンセルで変更されています。
「「清教徒」リッカルド役変更のお知らせ
「清教徒」に出演予定でしたアルベルト・ガザーレですが、重度の腎臓結石による痛みと発熱のため、医師より15日間の安静が必要との診断を受け、来日できないこととなりました。つきましてはリッカルド役は、ルカ・サルシが演じます。何卒ご了承いただけますようお願い申し上げます。
 なお、今回の出演者変更に伴うチケットの払い戻し、公演日・券種の変更はお受けできません。何卒ご了承を賜りますようお願い申し上げます。2011年9月2日 フジテレビジョン」

 主演者が3人も入れ替わった「カルメン」に比べたらまだましかもしれません。ボローニャとフジテレビは、ここまでして、高額なチケットの払い戻しをしたくなくて、しかも歌手たちのわがままのつけを私たち日本人に、何も文句を言わない日本人におしつけたいのでしょうか。

シューマン 「詩人の恋」「リーダークライス」 EMI Classics [声楽曲]

odaoda.jpg 8月になって、家でじっくり仕事ができるようになりました。だからステレオの前に陣取って、日頃買うだけ買って聞いていないCDを片っ端からかけながら、コツコツと仕事をしています。一生懸命考えなければならない仕事の時は、自分の仕事机でコンピュータに向かいながらするのですが、8月にする仕事は、どちらかと言うと事務仕事や機械的な処理だけで、その日の気分によってガンガンとなる音楽や、おとなしく物悲しい音楽や、色々と楽しめます。
 日頃、あまり時間がないと、大好きなイタリア・オペラ中心に聞いてしまうのですが、今回はシューマンの歌曲全集を持ち出してきて聞きました。昨年のシューマン・イヤーで、歌曲集2つ、合唱曲集、室内楽集、ピアノ曲集と5つも全集を買ってしまったうちの一つです。シューマンを聴いたのは主に30代前半、もう10年以上も前のことです。その頃は本当にシューマンの歌曲が大好きで、そのデリケートな響きを楽しんでいたものです。当時はCD買うお金もあまりなかったから、フィッシャー・ディースカウの全集を何度も何度も繰り返して聞いていました。そうして聞き込んでいるうちに、フィッシャー・ディースカウの理知的で学術的な歌唱に、なんか堅苦しさを覚えてきたのだと思います。自然とイタリアの音楽に移行して行ったものです。
 この全集は、主に男声はオーラフ・ベーア(Br)で、最近のドイツ歌曲ではゲルハーヘルしか聞いていなかったので、こうしてじっくり聞くのは初めてです。でもこのベーアの歌唱が、どちらかと言うとフィッシャー・ディースカウの対極にあるような歌唱で、とても朗らかで、伸び伸びしているのです。声の響き自体が気持ちよく、伴奏もジェフリー・パーソンズだから安心で、ずんずんと聞き進めました。
 聞いていたのは「詩人の恋」と「リーダークライス24」と「リーダークライス39」ですが、ベーアの歌唱は、まったく身構えたところがなく、とても自然体です。多くの歌手が一番上の旋律を歌うところでも、この人は下の旋律を歌います。またどの曲も柔らかく、とても優しい響きがします。この3つの歌曲集では、実は私は「リーダークライス24」はあまり好きではありませんでした。フィッシャー・ディースカウだと、少し大仰に聞こえ、あまりに皮肉っぽく響く箇所が多かったからです。ベーアはもっと詩を率直に受け止め、その情感を大切に歌い出すところがありました。「詩人の恋」も、月並みですが実はヴンダリッヒのが一番好きだったりして、やはりこの歌集はテノールだなぁと思っていましたが、いやいや、このベーアの歌う「詩人の恋」も格別でした。

 今年の夏は節電節電でクーラーも入れず、未だに真空管4本を灯して音を出すアンプを使っていると、部屋の中が暑くてたまりませんが、窓を開けてステレオをかける時に楽しめる開放的な音と、こんな風にのんびりと音楽をかけながら仕事ができることは、私にはたまらない喜びです。これがずっと続けばいいのになぁ。


PS: とは言うもの、フィッシャー・ディースカウはドイツ歌曲となると神様です。事典的な人で、本当に素晴らしい人だと思います。ベーアみたいな朗らかな路線が聞けると、ドイツ歌曲もバラエティが広がって、今までのフィッシャー・ディースカウ一辺倒の時代とは違って、嬉しいなぁ、ってことなんです。フィッシャー・ディースカウの歌が嫌いだなんてことは決してありません。

劇団四季 「オペラ座の怪人」 京都劇場  [ミュージカル]

odaoda.jpg 8月に入って、京都劇場の「オペラ座の怪人」を観てきました。前回大阪・ハービスエントで観た時、このミュージカルはもう劇団四季で観なくてもいいかなぁ、と思っていたのですが、会員情報誌が千秋楽だ千秋楽だって強く宣伝されているし、一度母親を連れてやってもいいかなぁと思い、京都のが終わる前に観に行ったわけです。

 舞台に向かって右側の真ん中通路側、前から3列目で、クリスティーンがこっちを向いて歌ってくれる回数が多かったのが嬉しい席でした。2幕最初の仮面舞踏会では、階段の上の方の人が見えなかったのが唯一の難点でした。

 何度も繰り返して聞くと、手のひらを返したようなクリスティーンの仕打ちや、ストーカーまがいのファントムの性格付けに、理性的には受け入れられなくなるような点も多いのですが、曲の美しさとストーリー展開、特に2幕でのたたみかけていくような展開は、本当にこのミュージカルの一番の魅力です。何度観てもワクワクしながら観てしまいます。
 ただ日本語訳にかなり問題があると思います。メロディーの美しさを損ねる字余りの言葉はまず大きな問題だと思います。確かに現代語に訳すのは大変だと思うのですが、できれば原曲のリズムにもう少しあった訳詞付けをして欲しかったです。また日本語でもいいのに英語やフランス語にしたりする点は、外国語に不慣れな年輩の人達、たとえば私の母などには、何を言っているのかわからないと思います。字で読むならそれなりに反芻して考えられるのですが、歌詞となると一瞬で終わってしまいます。「天使」「エンジェル」や「ムッシュ~」「~さん」の混在など、できれば日本語に統一した方がいいと思います。

 配役では、ラウルの中井智彦さんがなんせとってもうまく、本当に感激しました。母音もとても綺麗にそろえて歌っているし、声も綺麗だし、ハンサムだし、その若々しさもラウルに適切な配役です。ラウルは舞台でもCDでもあまり気に入った演奏がなかったので、今回は本当に嬉しかったです。劇団四季で歌うのはこれがデビューだとかで、そうには見えない堂々とした歌いっぷりは素晴らしかったです。
 クリスティーンもがんばっていましたが、クリスティーンって、大体だれがやってもあれくらいはしっかり歌ってくれるものだと思いました。
 問題はファントムで、声も男っぽくかっこいいし、中音以下もよく響く素敵な声なのですが、高音が出ない。高音がどれも割れているか叫んでいるか、悪いときは裏返ってしまうかで、その度に興醒めしてしまいました。たくさんのファンがいるみたいで、真ん中席の前の方の人達は、みんなウルウル目で見つめられていましたが、あの高音は、如何せん私はいただけません。1曲に必ず数回は出てくるのですから、他の何がよくっても、私は喝采というわけにはいきませんでした。前回大阪・ハービスエントで観た時のファントムも同じようにベテランの人だったと思いますが、この人も高音が出ず、最後は本当に聞きづらかった....。

 とは言うものの、合唱も素敵だし、立ち振る舞いも立派だし、やはり生で見るのはいいなぁと思った公演でした。

喜歌劇「こうもり」 佐渡裕指揮 兵庫県立芸術文化センター [オペラ]

fledermaus1.jpg 今年も西宮で佐渡さん指揮のオペラを観る季節になりました。私たちも今年で5年目。肩肘張らないオペラ上演で気楽ですし、今回はシャンパン気分のオペレッタですから、なおのこと楽しみに出かけました。
 今回もダブルキャストですが、今回はキャストを確認せずに日程だけで申し込んでしまいました。カウンターテナーのコヴァルスキーとざこば、剣幸の3人は共通ですが、私たちはロザリンデを佐々木典子、アデーレを小林沙羅、アイゼンシュタインを小森輝彦というセットの日で観ました。キャストをチェックして買っていたら、前回の椿姫での感動もさめやらない森麻季のアデーレ、塩田美奈子のロザリンデの方を絶対買っていたと思いますが、それも後の祭り(実際そちらのセットはかなり早く席が売り切れていました)。折角いい席を手に入れたのだからと、まだ聞いたことのない佐々木典子、小林沙羅がどんな歌手なのか楽しみに出かけることにしました。
fledermaus2.jpg 阪急西宮北口駅で特急を降りると、「こうもり」を観に行くとおぼしめきドレスアップした人達がせっせと歩いています。さすが宝塚の劇場体験に慣れた人達が多い場所柄、歩く姿に堂々としたゆとりさえ感じられます。
 席はステージ下手ブロック、真ん中の通路側の最前列でした。座ると、以前やった「メリー・ウィドウ」と同じように、オーケストラピットの前に渡り廊下風のステージがあり、少しワクワクした気分になりました。その通路の下側にある、オーケストラピットと客席の間の壁は、格子に布製のものが張ってある風のもので、音をとてもよく通しました。私はヴァイオリンの前辺りだったので、いつもなら少しバランスの弱い弦がよく聞こえてきてよかったです。

 まず演出から感想を述べさせてもらいますと、「メリー・ウィドウ」の時と同じでコテコテの関西風といった感じで、「吉本かい」とつっこみを入れたくなるようなものでした。「こうもり」は唯一ウィーン国立歌劇場でかかるオペレッタで、「メリー・ウィドウ」とは少し格が違うので、少し下世話過ぎる感じがありました。
 3幕を2部構成にしたのも、「メリーウィドウ」と同じだと思いますが、「こうもり」は2幕が華やかで、ドンチャン騒ぎがあるかと思えばストーリー展開に関わる重要な箇所もあり、途中で切ってしまうとその緊張感が切れるような気がしました。ポルカ「雷鳴と稲妻」は大好きですが、幕間の曲としての扱いより、パーティのガラ・パーフォーマンスとして踊りまくってもらった方が楽しかったと思います。本来なら2幕で明かされる「こうもり」の由来も序曲演奏時に字幕で出ていましたが、2幕を切ってしまうことでかなりのしわ寄せがあちこち出たのではないでしょうか。
 本編終了後のレビューは、「メリーウィドウ」の時は、劇中の有名な曲を落ち着いて聴かせてくれて嬉しかったですが、今回はウィーンに関する歌を使って、登場した歌手がそれぞれの声を聞かせるといった風情で、私は「メリーウィドウ」の時の方が豪華に聞こえました。
 張り出し舞台で合唱が歌ってくれるのは、一番前の席に座っている者としては至福の喜びでした。一人一人の声が本当に直接手に取るように聞こえてくるわけですから、迫力があって楽しかったです。
 総じて言うと、もうこの路線は今回まででいいかなぁという気がしました。

 歌手の人達はどの人も芸達者な人でした。とても楽しそうに演じていて、それだけでも楽しかったです。
 アデーレの小林さんは、とてもチャーミングな人で、役にとってもあった感じで、とても好印象でした(森さんならそんな風にはなってなかったかも...)。歌もとてもよくがんばっておられましたが、幕を追って荒くなっていく感じがあり、少し残念でした。特に3幕の早いパッセージがあるソロは、音程が少し不安定で、よく聴く曲だけに残念でした。
 ロザリンデの佐々木さんは、登場人物の中で一番日本語のことばがわかりにくく、佐々木さんの時だけ字幕を見なければなりませんでした。発声もこもったように聞こえてきて、最初は残念に思っていたのですが、2幕の懐中時計で口説かれるシーンで、私の真ん前の張り出し舞台に座って歌われ、直近で聞くと本当に美しい声で、そのとき以来、好感を持ってきくことができました。
 アイゼンシュタインの小森さんは、動きは楽しいのですが、声が顔の表情と同じでとても硬く、かなり重要な役だけに残念でした。
sadosign.jpg オルロフスキーのコヴァルスキーさんは、やはりこの役はカウンターテナーでは少し違和感があり、日本語歌唱もわかりにくく、海外から来てもらった著名な歌手なのですが、少し浮いた感がぬぐえませんでした。折角だし日本人のズボン役でも良かったのではと思ってしまいます。
 ざこばさんは以前よりリラックスして、佐渡さんと漫才(?)をするくだりなどとても楽しかったです。また剣さんはアンコール時にマイクを通してですが歌われ、これもちょっと得した気分でした。

 いつも通りTシャツを買って、佐渡さんのサインをもらいました。握手してもらって、いつも通り一緒に写真を撮ってもらいましたが、今年の佐渡さんはとてもお疲れの顔に写っていました。大丈夫かな。でもいつも通り、気に入った色はほとんど売り切れで、サイズもLは売り切れと、もう少し準備しておいて欲しいと思いました。明日再入荷しますだなんて書かれても、当日の私たちには意味がないですし。

 その後は京都に戻って、久しぶりに瓢樹でお食事。とても贅沢な一日でした。
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メトロポリタン歌劇場 キャンセルの経緯報告 [オペラ]

お客様各位

≪出演者変更に関する経過・経緯のご説明≫



 謹啓
  メトロポリタン・オペラ日本公演は、東日本大震災による原発事故から波及した影響で、当初は公演実施も憂慮されましたが、現在では無事に来日を果たし、6月4日に名古屋で初日を迎え、そして6月8日には東京でも開幕いたしました。
劇場では連日、素晴らしい公演が繰り広げられております。

 この度は日本公演に至るまでに、健康問題及び、原発問題を理由に来日を断念した出演者が出ましたことにより、皆さまには当初発表の出演者による公演をお届けできなくなりましたことは、私どもと致しましても誠に遺憾でした。そのような状況の中での公演実施に関しまして、お客様から様々なご意見や励ましのお言葉を頂戴いたしました。改めて御礼を申し上げますとともに、皆さまの一つ一つのご意見、お言葉を謹んで受け止めております。

 出演者の来日中止が直前になりまして決定したこともあり、皆さまには情報が十分に行き届きませんでしたことを心よりお詫び申し上げます。来日できなくなりました出演者や、それに伴うキャスト変更について、経過・経緯をここに改めてご報告いたします。

ジェイムズ・レヴァイン  5月7日(火)12:13 弊社WEBサイト他で発表いたしました。
 弊社代表が5月1日(日)ニューヨークのメトロポリタン・オペラで行われた、マエストロ・レヴァイン40周年記念ガラ公演に出席しました。(日本時間5月2日朝7時~13時ぐらいまで)
その席で、レヴァイン本人からも、日本行きを大変楽しみにしているとの言葉がありました。 
 しかし、5月5日(木)の「ワルキューレ」公演を体調不良から降板しました。日本時間の5月6日深夜(7日午前1:30過ぎ)、Metより3人の医者がレヴァインにドクター・ストップをかけたため、来日不可能になったとの連絡がありました。今回の日本公演中、6月5日の名古屋公演は、まさしくレヴァインがMetデビューを飾った日にあたりますので、40周年を日本で迎えるこの機会に日本のファンに姿を見せてもらえないかの話をしましたが、残念ながら長い旅行ができるような状態ではないとのことでした。弊社では、代役ファビオ・ルイジの確認をMetに行い、7日12時過ぎに、発表いたしました。

オルガ・ボロディナ、ヨナス・カウフマン -5月13日(金)17時に弊社WEBサイト他で発表しました。
 5月13日(金)深夜1時半過ぎに、Metより弊社へ2名のキャンセルの一報がありました。
ボロディナは、喉の不調により、フランスのトゥールーズでの5月13日(現地時間)及び、15日(日)のコンサート及び、パリでの17日(火)のコンサートを降板せざるを得なくなり、その時点で医者から、今後2カ月の休養を言い渡されたとのことで、6月4日~19日に渡るMet日本公演にも参加不可能となったことが伝えられました。 ちなみに彼女の夫であるアブドラザコフは本メト公演に「ランメルモールのルチア」のライモンド役でキャスティングされており、彼は予定通り来日しています。

 カウフマンについては、5月14日まで、ニューヨークのメトロポリタン・オペラにおいて、新作の「ワルキューレ」に出演のため、同歌劇場で仕事中でした。4月22日の「ワルキューレ」初日後に日本のジャーナリストのインタビューに答えて、日本に来ることを表明していました。(5月18日発売の「音楽の友」に掲載されています) 一方で地震・原発への懸念を口にし始めていたのでMetは説得を試みましたが、翻意できなかった為、至急代役を含めた確認を弊社に求めてきました。
5月13日同日朝7時半にNYタイムズのWEB版に、2名のキャンセルについての記事が出ました。
 弊社では、Metが提案した代役(グバノヴァ、リー)の最終確認及び、プロフィール翻訳等の準備など、お客様からのお問い合わせにきちんと答えられる準備を大至急整えた上で、同日午後17時に2名のキャンセル及び代役の名前を発表いたしました。

アンナ・ネトレプコ来日公演中止とバルバラ・フリットリの配役変更について
5月31日(火) ピーター・ゲルブ総裁 緊急記者会見で発表
 4月14日、弊社代表がウィーン国立歌劇場にてネトレプコに面会、「必ず行きます」と言う言葉がありました。
4月末、ネトレプコより夫のアーウィン・シュロットを、ゲストとしてツアーに同行したいとMetに申し出があったと連絡がありました。5月19日の時点でも、ゲルブ総裁がネトレプコのマネージャーと、すでに日本側で申請手続きを終えているVISAの受け取り方法について打合せを行い、まもなく受け取るので、まったく心配ないとの言葉を得ました。その後も、Metは、ネトレプコ及びマネージャーとは密な連絡を絶やさないようにしており、実際、航空券の手配(ウィーンから5月29日出発、30日名古屋着ということが決まっていました)など実務連絡が毎日のように行われていました。

 5月25日(水)朝10時にゲルブ氏から、ネトレプコが突然ツアーへの参加キャンセルを申し入れてきたと弊社に電話がありました。ゲルブ総裁がネトレプコと1時間以上に渡って電話で話をしましたが、チェルノブイリの影響で母親を始め、親族にもガンになった人が多いということを挙げて、自分はどうしてもその事を原因とする動揺と不安から、日本でベストのパフォーマンスを見せることができないので、ツアーには同行できないと語ったとのことです。 ゲルブ氏は、科学的情報を持っての説得はもちろん、このような最後の段階になってのキャンセルは、周りにも大変迷惑をかけるということも諭したようですが、彼女の意思は固いものでした。

 翌26日(木)以降、Met側は説得を続けながらも、平行して代役探しを行いました。代役探しも大変難航しました。「ラ・ボエーム」のミミ役を、Met日本公演にふさわしいクオリティで務められるソプラノは、世界でもそれほど沢山はいません。そのような候補者10名以上にあたりましたが、スケジュールの問題及び、一部の歌手は原発への懸念を表明し、どの候補も参加不可能でした。
 そこで窮余の策として、フリットリを「ラ・ボエーム」ミミ役に配役変更し、ポプラフスカヤを新たに「ドン・カルロ」のエリザベッタ役として配する案がMetから提案されました。弊社は、この案は、お客様にとってはベストな解決策ではないと判断し、一旦は反対しましたが、その後引き続きミミ役を探していく経過の中で、「ラ・ボエーム」「ドン・カルロ」両演目共に、Met日本公演の名前に相応しい高いレベルを保った上演を行うためには、やはりMetの提案策しか解決方法がないという、苦渋の結論に至りました。
 
 Metは、5月27日(金)に来日したバルバラ・フリットリに、空港からホテルに向かう車中で、Met総裁より上記解決策への協力を要請。フリットリも困惑を隠せない様子でしたが、28日(土)にツアー全体を救うために自分が協力できることならと了承してくれました。日本にいる自分のファンをがっかりさせることになったら大変申し訳ないと心配しながら、きっと分かってもらえることを信じての勇敢な決断でした。
 フリットリに関して、前もってこのような配役換えがあったということはまったくありません。彼女はミミ役を歌うことを了承してくれてか、Metが輸送した「ラ・ボエーム」の楽譜を借り出し、最近歌ったばかりだったのでよかったと言いながら稽古に励んでくれました。
 一方で、引き続き説得を試みたネトレプコの翻意が絶対にあり得ないと確認され、5月28日(土)にフリットリの代役確定の結論にいたったため、弊社は同日にメディアに通達し、5月31日(火)に緊急記者会見を行いました。 

 またオペラの引越し公演の場合、弊社はポリシーとして、すべてを劇場と契約し、アーティストの個別の契約は行いません。そうすることで、劇場が主導権を持って芸術的レベルと予算を適切に保つことができるからです。そのため、アーティストにやむを得ぬ事態が起きた場合には、まず劇場が個々のアーティストと連絡を取り合って対処をします。また、代役の決定についても劇場の決定が優先されます。
 弊社が主催する「日本公演」ではありますが、オペラハウスとして芸術の質に責任を持つのは劇場だからです。ただし、日本公演の場合、前もって予定され、発表されたソリストの参加は最重要事項の一つであることを契約内でもお互いに確認しあっており、代役選定が必要になった場合には、劇場と弊社が必ず話し合いを行うことと定められております。
 また、カバー歌手ではなくなぜバルバラ・フリットリを「ドン・カルロ」から「ラ・ボエーム」に振り替えたのかという質問もいただきました。カバー歌手は、あくまでも、公演の最中にアクシデントが起きたというような緊急時のために控えているという位置づけです。ソリストがやむを得ぬ事情により公演をキャンセルせざるを得ない場合、劇場は時間が許す限り、同等レヴェルのソリストを探すのが通常です。それは公演全体の質を保つという、オペラには非常に大切な観点からの事です。


ジョセフ・カレーヤ: 5月31日(火) ピーター・ゲルブ総裁 緊急記者会見で発表
 5月28日(土)、Metより弊社宛てに、カレーヤが飛行機に乗る前日になって、放射能への懸念から日本へ向けて出発することが、どうしてもできないと連絡がありました。彼の渡航手配は、5月29日(日)マルタ発-ミュンヘン経由-名古屋着のフィンエア便ということまで決定し、チケットも手配済みでした。
Metは、彼に再度連絡を取り翻意させようとしましたが、かなわず急遽代役を探し、31日の記者会見で発表しました。

メトロポリタン管弦楽団特別コンサート
 メトロポリタン・オペラの日本公演の一環としてメトロポリタン管弦楽団による特別コンサートが行われます。
今回は 6月14日(火)にサントリーホールで開催されますが、当初はジェイムズ・レヴァインの指揮で、下記の演目を予定しておりました。

ドビュッシー:管弦楽のための映像
ヴェルディ:「椿姫」より第3幕への前奏曲
ヴェルディ:「椿姫」より“ああ、そはかの人か?花から花へ”(ネトレプコ)
ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
チャイコフスキー:「エフゲニー・オネーギン」第3幕より“ポロネーズ” 
チャイコフスキー:「エフゲニー・オネーギン」第3幕第2場(ネトレプコ、クヴィエチェン)

レヴァインが日本公演を降板したことにより、指揮はファビオ・ルイジへ変更となり、それに伴い演目が一部変更され、5月15日に発表いたしました。
ドビュッシーの管弦楽ための映像がR.シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」に、そしてドビュッシーの牧神の午後への前奏曲がR.シュトラウスの「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」と変更になりました。そして他の演目・出演者の変更はありませんでした。

また、ネトレプコ降板を受けまして、出演者はマリウシュ・クヴィエチェンに加え、ディアナ・ダムラウ、バルバラ・フリットリ、ピョートル・ベチャワの出演が決定し、曲目は未定のまま5月31日のゲルブ総裁緊急記者会見で発表しました。
その後、6月3日(金)に下記の予定曲目が発表されました。

ベッリーニ:オペラ『ノルマ』序曲
ベッリーニ:オペラ『清教徒』から「おお、永遠に君を失った」(マリウシュ・クヴィエチェン)
ベッリーニ:オペラ『清教徒』から「優しい声が私を呼んでいる・・・さあいらっしゃい愛しい人よ」(ディアナ・ダムラウ)
R.シュトラウス:交響詩『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』 op. 2
ーーーーーーーー休憩ーーーーーーー
ヴェルディ:オペラ『運命の力』序曲
ヴェルディ:オペラ『イル・トロヴァトーレ』から「穏やかな夜」(バルバラ・フリットリ、エディタ・クルチャク)
ヴェルディ:オペラ『仮面舞踏会』から「永遠に君を失えば」(ピョートル・ベチャワ)
R.シュトラウス:交響詩『ドン・ファン』 op.20


以上、ソリストの変更に伴う経過・経緯です。
どうぞ皆さまのご理解を賜りますよう、謹んでお願い申し上げます。

敬白

(2011年6月11日)
株式会社ジャパン・アーツ
代表取締役社長 大内栄和

ヴェルディ 「ドン・カルロ」 2011 メトロポリタン・オペラ公演 愛知県芸術劇場大ホール [オペラ]

6月5日(日)、待ちに待ったメトロポリタンの「ドン・カルロ」を観てきました。
キャンセル騒ぎについては別記事に書かせてもらうとして、当日の感想を書きます。

met03.jpg入り口でとても立派なプログラムを下さるので、さすがメット、高いお金出しただけあるなぁと感心していましたら、ジャパン・アーツと中京テレビのささやかなお気持ちなんだそうです。メットじゃなくて日本側のプレゼントというところに日米の気遣いの違いを垣間見ます。

私の席は5階の後ろ。それでも32,000円も大枚をはたいて買った席です。舞台の奥までしっかり見えますし、音もそれなりにしっかりはっきり聞こえてきます。ただあまりにも歌手から遠いので、オペラグラスをもってしても、あまり歌手はよく見えるとはいえません。それに第一、同じ5階の私より前の座席の客が少しでも前屈みで観ようものなら、舞台はその人の頭しか見えなくなります。皆さん高額のチケットを買っただけあって、それにはものすごく腹が立っていたようで、直接前の人に文句を言ったり、後ろから肩を引っ張ったりして戻したりしている人がいました。

met02.jpgまず今回、清水の舞台から3度ほど飛び降りた気分でこのチケットを買おうと思った、しかも京都から新幹線に乗って行かないといけない名古屋の公演のチケットを買った理由は、まず「ドン・カルロ」には並々ならぬ思いを持っていることと、主役のうち5人も世界的なスターが出演するからでした。私の期待は、1番、ホロストフスキーを一度生で見てみたかった、2番、フリットリの美声をもう一度聞きたかった、3番、このところ売れまくっているカウフマンを一度聞いておきたかった、4番、日本ではあまりお目にかかれない立派なバスとしてパーペの歌唱を楽しみにしていた、の順でした。結果的には1番と4番が叶っただけでしたが、それだけでも今回は本当に納得して帰ってこられました。

幕があくとフォンテンブローの森で、さすがメットだなぁと思う舞台作りと合唱が嬉しかったです。メットはイタリア語5幕版を使うのだそうで、20年前に初めて買ったドミンゴとフレーニのドン・カルロも5幕イタリア語版でした。私が最初に聞いたのは、グラモフォンのスカラ-サンティーニ盤で、これも5幕イタリア語版(モデナ版)だったので、私は4幕イタリア語版よりこの方がずっと好きです。

主役で一番最初に登場、カウフマンの代役のリーは、音色にムラのある人で、高音のアクートは輝かしいのですが、それ以外の中音域の音や、聞かせどころではないところでは、ちょっとまだまだ荒いなーという印象でした。それと、カウフマンの代役としてガッカリさせたくないと思って下さっていたのか、1幕からかなり力が入っていて、このままじゃ中盤以降は大丈夫なのかなと思ってしまう出だしでした。実際5幕幕切れの二重唱は、もう柔らかい声が出なく、始終硬い声の歌唱が残念でした。

続いてフリットリの代役のポプラフスカヤが出てこられますが、この人、コヴェント・ガーデンでのドミンゴのシモンや、同じコヴェント・ガーデンでのヴィジャソンとのドン・カルロのDVDで知っていましたが、声量は凄いけど、歌い回しが少し荒く、上品な歌唱とは言えないなぁと思いました。もちろん世界の主要劇場の主役を張るプリマ・ドンナだけはある風格だし、DVDのアップは辛いけど、舞台で遠くから観ると、背がスラッと高く、とても舞台映えする人だと思いました。しかも、オペラ・グラスで観ていると、本当に演技派の歌手だなぁという印象を受けました。満足度は楽しみにしていたフリットリを上回ることはありませんでしたが、ヨーロッパの公演をキャンセルまでして来て下さって、この大役をここまでしっかり歌って下さったのだから、これ以上文句は持てません。特に5幕の大アリアをあれだけ立派に歌い切るのですから、拍手を送らざるをえません。幕切れの2重唱はリリカルなものだけに、少し彼女の歌唱の荒さが目につきましたが、これはその相手のリーの硬い歌唱にも原因があると思います。

met01.jpgホロストフスキーは、DVDで、コヴェント・ガーデンのルーナ伯爵とメットのオネーギンで見て以来、私は骨抜きになっていましたので、初めて登場するサン・フスト修道院が楽しみで楽しみで仕方ありませんでした。初めて見るお姿は、DVDで観ていた時よりも大分老けた感じがしましたが、やはり貫禄のある人でした。ただ2幕1場の歌唱は、声量をかなりセーブしていたのか、もう一つのめり込む音楽ではありませんでした。しかもリーとの2重唱は、ちょっと癖のある歌い回しが耳につき、特に最後の辺りはリーと十分かみ合わず残念でした。ただ2幕2場からはエンジンがかかり始め、パーペとの2重唱や、勿論4幕のロドリーゴの死の場面など、本当にブラーヴォという感じです。この人がアンサンブルをきりりと引き締めるという感じでした。火刑の場での立ち姿もとても格好良く、歌っていない時の演技もしっかりやっているという人でした。幕が進むにつれて、この人、やっぱしルーナやオネーギンのように、ちょっと悪い配役の方が合うんじゃないかなぁと思いました。

ボロディナの代役グバノヴァのエボリはもうがっかりです。特にコロラトゥーラのパッセージが少しある「ヴェールの歌」は、音程もそこそこですし、もう一つ白けてしまいました。逢い引きの場の3重唱もホロストフスキーがいるから劇的に聞けましたし、ドラマティックな「むごい運命よ」は大丈夫かと期待しましたが、これもそこそこという感じでした。

met04.jpgそれとパーペです。この人やっぱしすごいなぁと思いました。それはそれは存在感のある出で立ちで、顔も苦悩溢れる王という雰囲気を醸し出しています。ロドリーゴとの2重唱や「一人寂しく眠ろう」の凄いこと。ちょっと興奮してしまいました。大審問官がもう一つだったので、大審問官との二重唱は少しアンバランスでしたが、それでもパーペの存在を揺るがすものではありません。この二重唱は大好きな場面だけに、少し残念でしたが、元々の主役が3人もキャンセルした中、大審問官に立派な歌手を求めるのは酷かも知れません。なんせ生パーぺは本当に嬉しい体験でした。

しかしこれだけのキャンセル劇を出した公演で、予定を変えて来てくれたポプラフスカヤとリー、グバノヴァには感謝感謝です。特にポプラフスカヤは今回が日本デビューとかで、こんな形ではなく、十分に計画を整えてから来たかったことでしょうに、本当にありがとうという感じです。

私はあまりオケはわからない方なのですが、レヴァインの代役のルイジ、私の席からはまったく見えませんでしたが、あちこちに私が聞いている「ドン・カルロ」とは違う味付けがなされているところがあり、面白く聞きました。アーティキュレーションやアクセントの付け方でこんなに変わるんだなぁというのが実感です。ただ、5幕の幕切れは、無理矢理デクレッシェンドをかけないで欲しかった。とっても腰砕けで、ここまで長々聞いてきた壮大な終わりに似つかわしくないものだと思いました。

総じて演奏には満足して帰ってきました。さすがメットだなぁという実感で一杯でした。


ホールについて言うと、愛知県芸術劇場は初めて訪れたのですが、びわ湖ホールや兵庫県立芸術センターに慣れてしまうと、まったく前世紀の遺物みたいな構造で驚きました。まず階段の狭さに壁壁です。それと5階って、本当に階段で一生懸命上がらなくてはならず大変でした。客席も無駄な仕切りが多く、回り道を余儀なくされるところが多い多い。この構造、火事が起こったら上階席の人は焼け死ぬか、窒息死して下さいという感じです。それを思うとちょっと怖かったです。それにビュッフェの喧噪、客のではなく、売っている人達の喧噪です。市場の魚屋やあれへんで、高い金払ってオペラ観た後の休憩やのに、雰囲気つぶさんといてくれまっか、って感じです。それと退場する時、劇場の案内の人達が適切に案内しないのにもびっくりしました。すいているエスカレータに人を誘導すればいいのに、誰もいないフロアでボサーッとした係員が数人いるかと思うと、エスカレータの乗り口で耳元で挨拶をする係員。もう少し状況を見て動いて欲しいです。ってことで、どんなに魅力的なオペラが来ても、この会場には二度と足を運ばないことに決めました。


met05.jpg4時間40分にわたる長い公演、最終の新幹線を心配しましたが、名古屋駅でひつまむしを食べても十分時間があって、無事京都に帰宅しました。贅沢な一日でした。

続きにキャンセルについての思いを書きます。
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リッキー・マーティンの新作 Ricky Martin: Musica Alma Sexo [音楽]

rickyblog.jpg スペイン語を始めてから、歌を歌って覚えたいと思い、スペインのAlejandro SanzやメキシコのAlejandro Fernandezが気に入って聞いていましたが、Ricky Martinが6年ぶりに新作を出すというので、試しに買ってみました。日本語版の名称が「ミュージック+ソウル+セックス」っていうのですが、私のような年配者が買うには少し恥ずかしい題名ではありました。でもこのアルバムとっても気に入ってこの1ヶ月聞き込んでいます。
 リッキー・マーティンって、もう随分前に大ブレイクして、それ以来は過去の人という感が日本ではあります。彼ももう30も随分後半になり、当時の綺麗路線からずっと離れてマッチョマッチョの兄ちゃんという風貌に変わっていました。でも歌は齢を重ねただけある深みが出てきていると思います。
 Frio、Te Vas、Te Busco y Te Alcanzo、No Te Mientoといったお気に入りの曲も多いのですが、中でもBasta Yaという曲が気に入っているので、ここでご紹介したいです。Basta Yaって「もうたくさん!」って意味です。

Basta Ya
http://youtu.be/wYNTOpjbM1Q

真実の方に向かって、もう黙ってはいられないことを
みんなに説明する方法を探している
情け容赦なくこの感情を閉じ込めている牢獄から
涙がこぼれ落ちる

 すべてに抗ってでも、きみと一緒にいよう

 もうたくさんだ
 自分が感じることを閉じ込めてしまっておいて
 自分がしたいことを否定するのは
 もうたくさんだ
 体の内側から出てくる声を殺して
 誠実な人間のふりをして生きていくのは
 恐怖におびえたりはもうしない
 もうたくさんだ

理性が目を開かせてくれた
沈黙に守られていた言葉はもう待つのに疲れた
ここで僕の革命を起こそう
心を守ってくれる旗を手に持って

 すべてに抗ってでも、きみと一緒にいよう

 もうたくさんだ
 自分が感じることを閉じ込めてしまっておいて
 自分がしたいことを否定するのは
 もうたくさんだ
 体の内側から出てくる声を殺して
 誠実な人間のふりをして生きていくのは
 恐怖におびえたりはもうしない
 もうたくさんだ

ここから出て自分に正直になるんだ
苦しみを消し去り
自分の人生のあちこちで叫びをあげるんだ
「もうたくさんだ!」って


 この人も大ブレイクを経験して、このアルバムを出すまでは色々なことがあったみたいで、パパラッチに追いかけ回されたり、プライベートをなんやかんや口出しされたり、大変だったんだと思います。体外受精で双子の男の子の親になったり、昨年春にはゲイであることを発表したんだそうです。そういういったすべてのものとの決別と新しい出発をこの歌はしっかりと歌い切っていると思います。かなりの高音が使われていて、ほとんど叫びに近いところもありますが、本当に心から歌っている気がします。なのに最後は完全終始で終わらず、やっぱり不安は続いていて、それに向き合おうってことなんだろうって思っています。

 このアルバムを聴いてからは少しリッキー・マーティンに対する思いが変わり、他のアルバムも聞き出しましたが、彼の場合スペイン語のアルバムの方がこの人の良さが出ていていいと思います。

↓このアルバムの「Le Mejor De Mi Vida Eres Tu」のビデオがあります。
http://www.youtube.com/watch?v=kzxoQ9rbDAA
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ヴェルディ:歌劇「リゴレット」 ドミンゴ、グリゴーロ、ライモンディ [オペラ]

 YouTubeでドミンゴがタイトルロールをやっているリゴレットをみつけました。この夏イタリアで放送されたもののようです。以前、同じテレビ放送用にトスカを、メータ指揮でドミンゴ、ライモンディ、マルフィターノで、時間帯もほぼ同じにして、ローマのト書きにある場所でビデオを作っていて、それは本当に大好きでよく観たものでしたが、そのリゴレット版ということでしょう。舞台もマント-ヴァで撮影されたもののようです。

 唯一前回のトスカの時と違うのは、ドミンゴがバリトンとして歌っていることです。これにはかなりの賛否があるようです。
 先日、コヴェント・ガーデンとメットで録画された「シモン・ボッカネグラ」を両方買って観てみましたが、私はドミンゴのバリトンを手放しには賞賛できないかなぁと思いました。勿論長年の経験から、役になりきっていてすばらしいし、歌もとってもうまいのですが、音域が少し低すぎて、往年の艶のある声が出ないこと、またアンサンブルになったときに、ドミンゴのパートだけが凹んでしまう感じがすることなど、所々テノールとしてのドミンゴのキャリアがかすむ感じがしてしまうからです。
 リゴレットとなると、ヴェルディ中期の名作で、バリトンの聞かせどころの多い曲なので、それも少し顕著になってしまう感があります。シモンは元々それなりに歳を取ったやくどころなのでいいのですが、リゴレットはもっと深くて、しかも張りのある声が欲しい役だと思います。
 とは言うものの、私はやっぱりドミンゴが大好きで、見入ってしまいます。
 
 何よりいいのはグリゴーロのマント-ヴァ公だと思います。若くてまだまだモテモテそうなのはこの役にとてもふさわしいものです。パヴァロッティやドミンゴのマント-ヴァ公は、歌唱的には本当に優れていたのですが、映像で観ると少し???というところがあったので、外観的には適役だと思います。歌自体も、まだまだこれからと言うところもありますが、とっても伸びがあって、舞台経験もたくさん積んでそうな堂々としたものだと思います。

 早くビデオソフトが出ないかなぁと思います。
 
後日談:
 この記事を見て、同僚が先日NHK-BSで放送されたものを見せて下さいました。映像も音も綺麗なので感心しました。
 やはりドミンゴはこの役には合わないなぁと思いました。ドミンゴは英雄的な役を多く演じていましたし、とても理性的な顔立ちなので、娘には愛情は多いけれど少し屈折した精神状態のリゴレットを演じると、かなりの違和感を覚えてしまいました。ブッフォとして立ち回っている時にそれが顕著でした。声もやはり深い父親の愛情と苦悩を表すには軽すぎる気がします。ただ、スパラフチーレとの二重唱などは、ライモンディが軽めのバスであることもあり、底から響くようなおどろおどしさはないものの、メリハリのあるものとなっていて面白かったです。
 ジルダは、見た目も声もとても綺麗な人なのですが、歌う姿がとても年輩の女性のようで残念でしたが、やはりマントーヴァ公は若くて歌もうまくていいと思います。ただすごく汗をかいていて、汗がポトポトとしたたる姿はちょっと微妙かなぁ~。
 映像は、歌い手のアップになるか観光名所見せか、どちらかしかない状況で、シチュエーションがとてもわかりにくく、その点考慮がいるところだと思います。元々リゴレットはユーゴーの作品で、フランスが舞台なのだから、マントーヴァで撮ること自体意義があったのかは疑問ですが。
 一つの映像作品としては、とても質も高く、面白くできているのは事実です。
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兵庫県立芸術センター「椿姫」 森麻季(sop)、 佐野成宏(ten) [オペラ]

P1030564.JPG 京都から西宮北口まで行くのは遠いけれど、オペラを聴きに行くときはいつも足取り軽く、友達としゃべりながら電車に乗っているとすぐに着いてしまいます。
 今日の演目はヴェルディ「椿姫」。演目的には「ボエーム」「カルメン」と並んで、一番食傷気味なオペラです。日本、特に関西ではこんなのしかしないの?っていうくらい回数が多い。でも今回は期待で胸一杯です。昨年聴いてとっても気に入っているテノール佐野成宏さんがアルフレードだし、今とっても評判高いソプラノ森麻希さんのタイトル・ロールだし、演目などどうでもいいくらいワクワクしたプログラムでした。

 大好きな佐野さんは、一幕では全然調子が出ず、ヴィオレッタとの二重唱でも、高音が少ししんどそうに聞こえました。「花から花へ」の舞台裏からの歌は、森さんの美しい歌に合わない、本当に「一生懸命」な歌唱でした。でも二幕では随分声に張りが出てきて、高音もスコーンっと抜けるようになってきて、本当に嬉しく思いました。中音あたりに佐野さんらしい艶が聞き取れるようになって、二場の大見得切る場面もとても劇的かつ美しい響きを楽しめました。今年始めのNHKのニュー・イヤー・オペラ・コンサートでも不調だったので、少し心配していましたが、今回も絶好調とは言えなかったと思います。
 昨年のびわ湖ホールでのリサイタルが本当にすばらしく、買ってきたイタリア古典のCDも愛聴盤で、日本のテノールでは一番好きな人なので、がんばってもらいたいです。 

 一番の感動は森麻季さんでした。美しい声が低音から高音までムラなく響き、コロラトゥーラのパッセージも的確な音程で、聴いていてもとても安心感がありました。またフレージングやテンポ・ルバートの歌い回しも堂に入ってとっても粋だし、森さんが歌われている間は、本当にポカーんと口を開けて、聞き入っていました。
 それになんといっても美しい。肺病のヒロインにふさわしい細身の体と、プリマドンナの堂々さを併せ持つ、立派なソプラノだと思いました。二つのアリアは、いずれも二番カットでしたが、フルコーラスで聴かせて欲しかったです。

 青山貴さんは初めて聴く方だったのですが、父ジェルモンの威厳をしっかり漂わせた歌唱でしたし、朗々と鳴り響くノーブルな声にとても感動しました。「プロヴァンス・・・」のソロもさることながら、ヴィオレッタを説得する二重唱は本当に美しく、森さんとの声の相性がとってもよかったのか、涙が出そうなくらい感動的なできでした。
 現田茂夫の指揮はツボを押さえた演奏でしたが、オーケストラの技術自体はもう少し望むべきところがあると思いました。テンポがゆっくりとしたものはよいのですが、テンポが速いものは少し切れ味が悪く、リズムのノリも悪かったように思います。若い人たちが多いオケだったので、経験を積んですばらしいプレーヤーになっていって欲しいです。
 合唱団はすばらしいと思いました。一人一人がとても丁寧に歌っておられ、その様子もよく伝わって来ました。人数はそれほど多くなかったと思いますが、インパクトのある演奏でした。バレーのみなさんもオマケといった感じではなく、それ自体もしっかり楽しませてくれる内容だったと思います。

 前から二列めで観たのですが、これで8000円だなんて本当に信じられません。コスト・パーフォーマンスも高く、しかも今回は歌手の水準も高かったので、心から感激して帰ってくることができました。
 
 この土曜日の演奏もがんばって欲しいです。

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びわ湖ホール プロデュースオペラ 「アイーダ」 3月6日 [オペラ]

P1030565.JPG 2011年春のびわ湖ホール・オペラは3月5日・6日のダブル・キャストで公演がありました。並河寿美(sop)、小山由美(mezzo)の5日の方が前評判も高かったので、私たちもこの二人は何度か聴かせてもらっているので、本来ならこちらの方がよかったのですが、土曜が出勤日の私としては6日の方を選ばざるをえませんでした。
 アイーダは高校生だったころはよくレコードで聞いていたのですが、四捨五入して50になる今としては、情熱を持って聞けるオペラではなくなっていました。だから、曲そのものというより、祝祭的な舞台を楽しませてもらおう思って出かけました。

 感銘を受けた順から言うと、まずはオーケストラと合唱団だと思います。このような祝祭オペラは、オーケストラと合唱がどれだけ雄弁にこちらの感性に訴えかけてくるかというところが大きいと思います。その点でとてもよかったと思っています。沼尻竜典さんによるところも大きいと思うので、たくさん拍手させてもらいました。沼尻さんって、あまり大きな人ではないのに、オーケストラから立派な音楽を引き出してくれる人だなぁと思っています。
 有名な凱旋行進曲でアイーダトランペットが6本使われ、そのまろやかで優雅な音色にも感動しました。演奏が難しいのか、要らない音を出してしまっている人もいましたが、珍しい楽器で、それほど慣れてなかったのかも知れません。

 長くアイーダを聞いてなかったので、今回久しぶりに聞いて思い出したのですが、アイーダは祝祭的な面だけが強調されがちですが、それは1幕と2幕にあるだけで、それ以外のところはどちらかと言うと主人公の心の葛藤に寄り添って繰り広げられる心理劇的な部分もあります。その点から言うと、3幕と4幕の展開はとても気に入りました。特に4幕1場などは、随分長くCDでも聴いたことがなかったので、とても深い感銘を受けました。

 歌手で言うと、一番気に入ったのはアモナズロの堀内康雄(br)さんです。十分な声量があり、堂々とした歌い回しがとても良かったです。今年のNHKのニューイヤーオペラコンサートで見た時もとてもよかったので、楽しみにしていました。ただほとんど3幕でしか歌わないのがとても残念でした。もっと聞きたかったです。
 ラダメスの福井敬(ten)さんは、とてもロブストで高音の伸びもよく、堂々としたラダメスを聞かせてくださいました。NHKのコンサートで見ているといつも少し硬い感じがあって、少し私の趣味とは違うなぁと思って来ましたが、今回のラダメスですっかり見直しました。
 アムネリスの清水華澄(mezzo)さんも感銘を受けたうちの一人です。なんせ声量がたっぷりあってそれだけでも圧巻だったのですが、情熱的な歌唱にも感動しました。少し大味なところがなきにしもあらずですが、オペラの舞台で接するのにはまったく問題がないと思いました。
 私が一番残念なのはアイーダの横山恵子(sop)さんです。細かいビブラートがコンスタントに響き、音程自体が私にはわからないのです。たまにこういったソプラノが日本にはおられますが、私の一番苦手なソプラノです。「勝ちて帰れ」や「ああわが故郷」と、私の大好きなアリアだけに、自分の好きな声で聞けなかったのでとっても残念でした。たまに歌い回しが荒くなるところもありましたが、概して丁寧には歌っておられたと思います。

 演出は、無駄を排した合理的なもので、シーズンがあるわけではない関西のオペラ界のものとしては納得のいくものだったと思います。十分な広さのないびわ湖ホールの舞台で動かすにはかなりたくさんの登場人物がいたので、特に合唱の動きなど、文化祭のマスゲームのような動きで失笑してしまうところがありましたが、それ以外はよく考えられていました。特に3幕・4幕と、話が心理的なところに移ってくると、舞台装置も含めてとても良かったと思います。4幕2場の二重舞台もとても良かったです。
 凱旋の場のバレーは随分楽しませてもらいました。合唱もソリストもいる狭い中で、本当によくやられていたと思います。2幕1場の子供たちのダンスもとってもかわいくて良かったです。こういう愛らしいアクセントが、今回の公演を質の高いものにしていたと思います。

 家に帰ってからは、CDで3幕や4幕1場をしっかり聞き込むようになりました。また機会があれば観に行きたいなぁと思っています。
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びわ湖ホール ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」 2010.10.10 [オペラ]

P1030582.jpg イタリア・オペラ専門で、しかもプッチーニやヴェリズモよりヴェルディが好きな私としては、ワーグナーというのはある種脅威の作曲家です。勿論大学生の時は一生懸命努力しました。ベームの指輪もLPでかなり聞きましたし、マイスタージンガーもトリスタンもちゃんと聞いていました。ミュンヘンでは、サヴァリッシュの指輪も観ました。本当に努力していました。でも歳を取るにつれて、また三十路も半ばを越えた頃から忍耐もなくなり、そろそろ50かという今では、ワーグナーのLPやらCDは、まるで家具の一部のように並ぶだけになっていました。びわ湖のオペラは、でも、演目はともあれ(と言っても「ルル」はさすがにパスしました)、全部観るようにしようと思っていたので、このトリスタンも観に行きました。
 トリスタンは、ベームのライブも、ショルティもクライバーも持っているんです。今回観に行く下準備と称してパッパーノの新しい録音も買いました。っで、前奏曲と愛の死は本当によく聞くんです。だからワーグナーの中でも一番聞く部類に入ると思います。(ワーグナーファンの方、ごめんなさい。)だから期待はあったものの、トリスタン鑑賞デビューとしては、サロメ3回観るだけの時間に果たして絶えられるのかどうかというのが一番の心配でした。

 でも前奏曲が始まってその不安は解消です。

 トリスタンの音楽って、こんなにライトモチーフがこんなに効果的に使われていたんだと初めて知りました。これは生の舞台に接して初めて判ることなんだと思いました。それに舞台が簡素で美しい。もっと抽象的な、日本で言うと能のようなものかと思っていましたが、状況がよくわかります。少し現代風にしてありましたが、私のような生トリスタン初心者にはわかりやすいものでした。
 それとなんと言っても日本人歌手の巧いことです。驚きました。まずはなんせイゾルデの小山由美さんとブランゲーネの加納悦子さんに大拍手です。この長舞台を堂々と歌い切るのって本当に尊敬ものです。途中で声が無くなってしまうわけでもなし、朗々と響く声に感動しました。
 マルケ王の松井浩さんもまたとてもゆったりとした声で良かったですし、クルヴェナールの石野繁生さんも、それほど大きな人ではなさそうですが、とてもいい声で嬉しかったです。
P1020917.JPG 問題はタイトルロールのジョン・チャールズ・ピアースさんかも知れません。他の日本人歌手を圧倒する大きな体なのですが、体調が悪かったのか、声量があまり出ず、セーブ気味でした。技術以前に、そのセーブ加減さによるのでしょうが、随分興ざめな気がしました。
 3幕の最後は、始まる前まであれだけ心配していたのに、退屈するどころかストーリーにのめり込んでしまって、涙がダラダラと出てしまいました。私はどちらかというと終幕のマルケ王に一番感情移入してしまったのだと思います。もっとも愛する2人を同時に失うという悲しみが、松井さんの歌からよく伝わって来ました。
 愛の死が、舞台がどんどん上がっていくのは、勿論魂の昇華ということもあるのでしょうが、少し安易だなぁとは思いながら、終幕は涙に鼻水ダラダラで迎えました。

 帰ってトリスタンのCDをかけたのはいうまでもありません。でもDVDはやっぱり買う気力はないかなぁ。いずれにせよ、本当に価値のある生トリスタン初体験でした。


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びわ湖ホール 西本智実 with スミ・ジョー リトアニア国立交響楽団 [オペラ]

 一度生で聞いてみたかったスミ・ジョーのコンサートがびわ湖であるので行くことにしました。スミ・ジョーって、東京にはよく来てるようなんだけど、関西にはあまり来なくて、首を長くして待っていました。
sumi_jo.jpg

 スミ・ジョーって、カラヤンがザルツブルク音楽祭で上演したヴェルディの「仮面舞踏会」で出ていたくらいだから、かなり長いキャリアのある人なんですが、意識して聞いたことなかったんです。それが10年程前にイタリア古典歌曲集のCDを買って聞いてみると、なんと潤っていて巧い!それ以来のファンでした。(ファンといってもCDを買い集めたりはしませんでしたが...。) 

 プログラムは前半にスミ・ジョーを主役に据えた、彼女の良さがバンバン伝わる曲を中心に置き、後半は「展覧会の絵」とラベルの「ボレロ」でした。スミ・ジョーのための曲もおなじみのものが多かったので、プログラム全体としては、ちょっとクラシック入門コンサートの体で、少し気恥ずかしかったです。
 さて、前半のスミ・ジョーのプログラムですが、まずは「こうもり序曲」で始まります。これは私の大好きなオペレッタで、ウキウキしながら聞いていましたが、やっぱりウィーンの軽妙さはなく、どこか田舎くさいノリの演奏でした。続くスミ・ジョーの歌は、同じ「こうもり」から3幕のアデーレのクープレで、ちょっとお嬢さんの役からすると歳が上だけど、語り口のとっても上手な楽しい演奏でした。
 続く「ヴィラネル」って歌は、恥ずかしながら初めて聴く歌でしたが、言語も聞き慣れたイタリア、ドイツ、フランスってことはなく、まったく知らない歌でした。でもとってもロマンチックで、これがスミ・ジョーさんのソット・ヴォーチェと相まって、本当に美しい曲でした。
 ヴェルディ「椿姫」の「ああ、そはかの人~花から花へ」となるとちょっと状況は変わるのは、私がこの曲を聴き過ぎていて、とても思い入れがあるからかもしれません。でもソット・ヴォーチェを多用したカヴァティーナはとっても魅力的ですし、コロラトゥーラのすばらしい技術を見せてくれるカヴァレッタも目を見張ってしまいました。ただ省略が多すぎて痛ましいくらいでしたし、最後の超高音は少し無理があったようで、この形を取らないでもよかったのになぁ...と思ってしまいました。
 アンコールに「ホフマン物語」より、オランピアの唄があり、これがまた小粋な歌い回しでほれぼれ聞かせてもらいました。動きも西本さんとの掛け合いがあったりして、とても面白いものでした。

 オーケストラだけになると、もちろん西洋人ですから舞台映えのするゴージャスなものでしたが、演奏となると、弦の音色がそろってなかったり、金管楽器が情けなかったりと、わざわざ聞くほどでもない音でした。でも西本さんのカリスマ的存在は視覚的にも気持ちよく、この人が日本で人気があるのもわかる気がします。宝塚の男役のような出で立ち、大きな身振り、どれをとっても指揮者として十分貫禄のあるものでした。
 展覧会の絵はまだいいものの、ボレロはもう食傷気味なので少しつらかったです。

 気持ちのいい一日で、とっても得した気がしました。

石丸幹二 リサイタル 兵庫県立芸術センター 阪急中ホール [ミュージカル]

 石丸幹二がデビューCDを出して、その記念コンサートがありました。東京や名古屋では大きなホールを使っているようですが、関西ではこの兵庫県立芸術センターの中ホールで、とても近く感じるいい席でした。
 石丸幹二を初めて接したのは、京都劇場での劇団四季公演「ハムレット」でした。本当に格好良くて、劇のスタイルも堂々と男らしく、その時以来のファンです。と言っても、劇団四季はその日の俳優を言ってくれないので、異国の丘もパスしました。っで、壁抜け男はさすがに石丸さんだろうと思って足を運びましたが、その通りでとっても満足しました。あとは今年の年初にあった「ある兵士の物語」で、同じ兵庫県立の中ホールでした。
 今回はリサイタルなのに8,500円は少し高いと思っていましたし、なんせ予約電話殺到で、なかなか電話がかからず、2階席の一番前となりました。

 CDをあらかじめ買っていて聞いていましたが、大好きな石丸さんにも関わらず、CDは×。声に伸びがなく、どれも一本調子に聞こえてくることが一番のネックでした。
 でもコンサートはやはり生の強みを出してくれました。最初のうちこそまだまだ堅い発声でしたが、一幕の終わりから2幕終わりにかけ、本当にうまかったです。日本の歌手のカヴァーより、オリジナルで作られた「名もなき星になる日まで」や「緑の風薫る地へ」がとっても雄大できれいでした。またミュージカルの曲はどれも水を得た魚の様にしなやかかつ劇的な歌いぷりが嬉しかったです。CDで聞く以上にドラマティックで、曲に表情をつけるのがうまいなぁと思いました。
 何より丁寧なのは、1曲1曲解説をして下さるんです。だから知らない曲でも、石丸さんのその曲に対する思い入れがよくわかり、その分こちらもその思いを重ねて聞けるからわかりやすかったです。だから3時間近くのコンサートになり、最初は高いと思っていた8,500円もとってもお得感がありました。

 終演が結局遅くなり、食事も急いで食べる始末になりましたが、とても気持ちが豊かになるコンサートでした。 

http://youtu.be/Gxtnjt4iEEI
 ↑石丸さんのfirst albumに入っている「名もなき星になる日まで~別れの曲 」です。
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Krystian Zimerman ツィメルマン ショパン・コンサート びわ湖ホール [音楽]

P1020351.jpg 長く待ちわびたツィメルマンのコンサートに行ってきました。あまりピアノを聴くのに熱心でなかったのですが、数年前に小澤征爾指揮のラフマニノフの2番協奏曲を聴いて、あまりの音のきれいさ、表情の粋さに憑かれ、ショパンのバラードや舟歌を遅まきに買い、感動していました。残念ながらポーランドの作曲家やガーシュウィンとかを持ってこの頃来日することが多かったので、こうしてリサイタルに来る機会がありませんでした。今回はソナタ2つを中心としたプログラムで、まだソナタは録音なしなので、とっても楽しみにしていました。
 久々に満杯のびわ湖ホールで、舞台に現れたツィメルマンは、もうすでにジャケットで知っていた若くすがすがしい人ではないのだけど、思慮深くはにかんだ様子がとても好ましい印象でした。結局、ノクターン5番、ソナタ2番、スケルツォ2番で休憩、ソナタ3番、舟歌で、アンコールなしというプログラムでした。

 期待度の順で言うと3番ソナタ、舟歌、2番ソナタ、スケルツォ、ノクターンでした。ノクターンはどちらかと言うと指ならしかのような軽い演奏でした。
 続く2番そなたは、少しペダルが多いかと思ったけど、本当に入魂の演奏で、結果的には私が一番感動したものでした。大好きな1楽章で感動したのは勿論のこと、3楽章葬送行進曲が、本来ならあまり好きではないのに、涙してしまいました。第1部は、他の人のでもあまり聴くことがない遅いテンポで、1拍1拍を深く引き込んでいました。中間部は抑制の効いた美しい音で、よく言われる「天上の安息」を穏やかに豊かに引き込んでいました。続く再現部は、少し最初より早い気味ですが、オクターブで葬送のモチーフを奏でるところを頂点とし、そこからは徐々に穏やかになるように引かれていました。この曲で思い描ける亡くなった人への思いがしみじみ伝わってきて、知らぬ間に目頭が熱くなっていました。
 3番ソナタは、見ていて楽しい程の腕の動きで、歌わせるメロディとなると、歌いすぎることなく極上の音で鳴り響いていました。舟歌は何度聞いても優雅でいいのですが、特にコーダ部の押さえてた高音から駆け下りるパッセージなど、うぁーきれい、と思わずため息が出ました。

 帰ってきてもう大分経ちますが、未だに葬送行進曲の感動は覚めやらず、昨年亡くした父への思いとも結びついて、心の中で鳴り響いています。

錦織健 法華寺コンサート 平城遷都1300年 光明皇后1250年遠忌奉賛会 [オペラ]

 母親がどうしても見に行きたいというので、渋々付き合うことにしました。テレビで何度か観て、それほど感銘を受けていたわけではないと言うのがおおきな理由なのですが、去年行ったばかりの法華寺で行われると知って、会場的にとっても不安を感じさせるものでした。

 実際会場に着いてみると、狭い寺の入り口は人と車で一杯。本堂前にはパイプ椅子が並べられていて、肌寒いコンサートとなる予感。スピーカーシステムは本堂の側に2つあるのみ。ピアノはエレクトリック。さてどないなるのかなって感じでした。

 伴奏者の安田芙充央さんのピアノで始まります。ジャズピアノらしい洒落た和声のピアノが印象的でした。それに錦織さんが現れます。
 曲は前半が「さくら」「「からたちの花」「朧月夜」「荒城の月」など、有名な日本歌曲が中心で、後半はイタリア・オペラ・アリアからカンツォーネで、一般にわかりやすい曲ばかりが選ばれていて、こういった聴衆に合わせた選曲がとても好ましいと思いました。うちの母親も本当にご満悦でした。
 錦織さんの歌は、中音域がとても艶やかで伸びがあり、気持ちよかったです。ソットヴォーチェも美しく、ご自慢な様子がわかる多用度はほほえましいものでした。ただ高音はかなり薹が立って金属的な響きで、居心地の悪さを感じました。特に「誰も寝てはならぬ」の最後の音は、厳しい響きであるにもかかわらず長く伸ばされて、聞いていて少し辛かったです。コンサートの閉めに使わなかった理由もここにあるのかな。キーを低めにするか、この際オペラアリアは歌わなかったらよかったかも知れません。それ以外の曲は、長年歌いこんでおられるのか、ピアニストとの息もぴったりで、本当に気持ちよく聞かせてもらいました。
 ピアニストの安田さん、前半の日本歌曲ではかなり自由に編曲されていて、とっても面白かったです。一番面白かったのは「宵待草」で、普通では考えられないベースラインが意外性をかもし出して、とっても気に入りました。「荒城の月」など、花をあらわす音が細かいアルペジオかトレモロで、少しうるさいかなぁと思いました。オペラやカンツォーネは、どちらかというと原曲を留めた形の伴奏だったので、エレクトリックピアノだったこともあり、広がりに欠ける感じがしました。

 一番驚いたのは、錦織さん自身が一生懸命しゃべる事です。歌手ですから、歌以外のところでしゃべり続けていたらさぞ喉が疲れるだろうなと思いました。こんな中でコンサートをされるのですから、本当にパワーのある人だと思いました。50歳だなんて驚きです。

 面白い経験をした一日でした。

錦織健 法華寺コンサート 平城遷都1300年 光明皇后1250年遠忌奉賛会
 
 
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